2026年6月7日(日)、第37回御木本メソッドアカデミー認定講師と研修生のためのセミナーをオンラインで開催しました。司会進行は恩田 明香特別講師です。
今回は「講師による発表シリーズ第2回」として、経験豊富な3名の認定講師に、それぞれ自由なテーマで発表していただきました。
佐田 真喜子講師「最近ホットな指導法」

最近、佐田講師が特に着目しているのが、一人ひとり異なる「指の長さの相対的なバランス」です。指の長さのタイプや手の甲の角度の例をイラストを用いて解説し、参加者の手をモニターに映して見比べました。
オクターブや手を広げる和音に苦手意識を持つ生徒は、その箇所にさしかかると音楽的な流れが止まりがちです。そうした「手が小さく小指が短い」生徒に対しては、小指の角度を工夫したり、その人の手にフィットする甲の高さや鍵盤に置く手の位置を丁寧に探ることで、手首の硬直を改善へと導いています。一般的に良いとされる「理想の指や手の形」にとらわれるのではなく、その人なりの、今できるベストなフォームを探求する手助けをしていくこと。そして最終的には生徒自身が「耳で聴いて、良い音かどうか」を判断し、自立して学んでいける気づきを大切にされているのが印象的でした。
また、質疑応答でも盛り上がったのが「姿勢の重要性」です。最近は若い子でもお腹の支えがうまく使えず、重心が上がって姿勢が崩れてしまったり、内股になってペダルがうまく踏めなかったりするケースが少なくありません。美しい弱音や豊かな音量を生み出すには、腰や腹筋、足といった身体の軸が不可欠です。耳と身体、そして手指を連動させ、弾く前の段階からすでに心の中で歌い、音楽を感じていくこと。生徒が抱える問題の根本を鋭く見抜く視点にあふれた、非常に示唆に富んだ発表でした。
久田えりか講師「シニア世代に対する御木本メソッドの活用と効果」

発表では、70代・80代の3名の生徒さんの特徴、具体的なレッスン内容とその効果について、課題とトレーニングをまとめた表を用いながら分かりやすく説明されました。
シニア特有の身体的・神経的な制約はあるものの、理解力は非常に高く、響きや音色の違いを聞き分ける力にも優れています。御木本メソッドで弾けない理由を明確にし、「理論的に説明できること」が、大人の生徒指導において魅力のひとつだと語ります。どの筋肉を動かすのか、脳とどう繋げるのかを納得して取り組んでもらえることで、神経回路が音に反映され、緩やかであっても確実な上達につながっていきます。レッスンでは「今まで使っていないところに神経を繋げ、使える道をたくさん開通させること」を大切に、無理や痛みのない範囲で輪ゴムなどの軽い負荷を用い、疲れ過ぎないような配慮がなされています。
また、姿勢へのアプローチも重要視されており、弾く前の体操で体をほぐすことや、1曲弾き切るための体幹のキープ力を高める体操などが紹介されました。シニア世代になっても「ピアノをこう弾きたい」という理想と熱い気持ちに寄り添いながら、シニア世代だからこそ効果を出せる指導の道を模索する久田講師の姿に深い感銘を受けました。
山本 彩加講師「初等教育における運動経験がピアノ奏法に与える影響 – 日独比較」

山本講師は20年間ドイツで暮らし、レッスンをしてきた経験から、西欧人と日本人の身体の硬さや意見の述べ方の違いについて発表されました。これらは先天的なものではなく、幼少期からの教育環境に起因するものではないかという興味深い提議です。
たとえば身体面では、日本の緻密な体育教育と欧米の自由なスタイルの差により、日本人には基本である手首や肩の柔軟性が、西欧の生徒にとっては体の硬さや演奏時の不器用さの原因になっているケースが示されました。また、自分の意見をはっきり伝えるドイツの教育環境では、音楽をどう感じたかという問いに対しても生徒が即座に自分の意志を表現します。頑固な気質でもあるため、解剖図を見せて論理的に説明し、納得してもらうことでレッスンがスムーズに進むというエピソードも印象的でした。
質疑応答では、ピアノ教育における欧米人と日本人の成長時期の違いや、学習指導要領の影響について活発な意見交換が行われました。日本とヨーロッパそれぞれの環境や特性に合わせて「今後どうアプローチし、本人の意思や音楽性を引き出すか」という、指導者として重要な視点を与えてくれました。文化や環境の違いが、いかに人間形成において、ひいては演奏へ影響するかを紐解く、大変説得力のある発表でした。
今回の発表も、生徒さん一人ひとりの可能性をどのように引き出すか、その具体的なプロセスを共有できる大変貴重な機会となりました。本日の発表やディスカッションを通じて、皆様の指導の引き出しがさらに広がり、明日からのエネルギーに繋がるような、有意義な時間となっておりましたら幸いです。

お忙しいところ貴重な発表をしてくださった講師の皆様、また、ご参加くださった皆様に、厚く御礼申し上げます。
